※本記事は
「解体工事トラブル回避の全設計図(全10回シリーズ)」の第5回です。
「言った言わない」を防ぐ方法
◆ 沈黙のコストを甘く見るな
解体工事で、あとになって一番後味が悪くなるトラブル。
それが「言った」「聞いていない」問題です。
ここではっきり言っておきます。
解体業界において、
「言わなくてもわかってくれるだろう」
という期待は、
数万円〜数十万円の損失を予約しているのと同じです。
- 契約違反ではない
- 法的に黒とも白とも言い切れない
- それでも確実に、お金と信頼だけが削られていく
実際には、「ついで作業」「認識違い」が積み重なり、
気づいたら100万円近く膨らむケースも珍しくありません。
工事が始まってから、
「常識だと思ってた」「そこまで言う必要ある?」
と嘆くのは、すべて事前設計を放棄した代償です。
この記事では、
「揉めたときの対処法」ではなく、
最初からズレが起きない状態をどう作るかを解説します。
1. なぜ解体工事は「認識ズレ」が起きやすいのか
👉 解体工事トラブル全体像と防ぎ方の設計図は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 を先にご覧ください。
1-1. 解体工事は“仕様書が薄い工事”
解体工事には、建築工事のような明確な「完成形」がありません。
工程の多くが現場判断に委ねられ、
途中変更が前提となる――
言語化されていない領域が異常に多い工事です。
ここを曖昧なまま進めれば、認識がズレるのは当然です。
1-2. 認識ズレの正体は「悪意」ではない
ほとんどのケースで、悪意はありません。
- 施主は「常識」だと思っている
- 業者は「契約外」だと思っている
この前提のズレが、すべての火種です。
だからこそ、
「言わなくてもわかる」は、解体工事において最も危険な思考なのです。
2. 「言った言わない」が発生する典型パターン
2-1. 営業と現場で話が違う
営業担当は「できます」と言った。
でも、現場責任者は「聞いていない」。
これは、
情報が現場に正しく落ちていない典型例です。
重要な合意事項は、
必ず現場責任者の名前が出る形で書面化しなければ、
「言ってない」扱いになります。
2-2. 「ついでに…」が生む最大の混乱
「ついでにこれも」
「できたらでいいです」
この「できたらでいい」は、現場を迷わせる最悪の指示です。
- やるのか、やらないのか
- 無料なのか、有料なのか
白黒をつけない“優しさのつもり”が、そのまま追加費用トラブルの火種になります。
2-3. 曖昧ワードの放置
次の言葉が出たら、要注意です。
- 「一式」
- 「常識の範囲」
- 「必要に応じて」
- 「できるだけ」
これらはすべて、あとでズレることを約束する前提ワードです。
3. 認識ズレを防ぐ「契約前」の設計
この記事で言う「玄人」とは?
”リスクの構造を理解した上で、先回りして“設計”できる施主”
3-1.玄人は作業内容より「判断ルール」を決める
玄人が重視するのは、
作業の細かさではありません。
- 誰が判断するのか
- いつ確認するのか
- どうやって合意するのか
この決定プロセスを固定することが最重要です。
3-2. 「含まれないこと」を決めない契約は、ほぼ確実に揉める
やることだけを書かせてはいけません。
- やらないこと
- 別途になること
これをあえて言語化させる。
それが、後で一番効いてくる安心材料になります。
4. 現場でズレを起こさない“距離感”
4-1. 現場に行きすぎる施主ほどズレを生む
毎日現場に顔を出すと、
- 雑談の延長で話が進む
- 責任の所在が不明な口約束が増える
結果として、
「誰が決めたのか分からない話」が量産されます。
4-2. 玄人施主の正しい立ち位置
やるべきことは、これだけです。
- 見る
- 聞く
- 確認する
指示はしない。判断もしない。
決めるのは、現場責任者ただ一人に集約させる。
※ 顔出しや最低限の挨拶、状況確認は有効です。
問題なのは、現場で約束してしまうことです。
5. それでもズレたときの玄人対応
5-1. 感情ワードは封印する
「言ったでしょ」はNGです。
代わりに、こう伝えてください。
「どこまでが契約内容で、どこからが別途になるのか、
一度整理して書面で確認させてください」
感情を挟まず、事実と記録に戻す。
これが唯一の正解です。
5-2. 「記録に戻す」を“作る側”に回れ
玄人は、記録を後追いしません。
- 打ち合わせの最後に
- その場でLINEやメールで決定事項を送る
- 相手に「了解しました」と返信させる
「後でまとめます」は信用しない。
その場で証拠を確定させる。
これがズレない現場のスピード感です。
※この運用ができない業者と進めば、「言った言わない」は必ず起きます。
👉 これらを一体で管理する考え方は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 にまとめています。
まとめ|解体工事を成功させる“本質”
解体工事を成功させるのは、
運でも、業者の良心でも、人柄でもありません。
施主が
「リスクの構造」を理解し、
主体的に現場をコントロールする知性です。
言った言わないを防ぐのは、
テクニックではなく「設計」。
そしてこの設計こそが、
第1回から第5回まで一貫して伝えてきた、
「施主が主導権を持つ解体工事」の正体です。
本記事は、解体現場に25年以上携わってきた筆者の経験に基づき、
一般的な判断材料としてまとめています。
この記事を書いた人
秋ちゃん
解体業に25年以上従事。
1級建設機械施工技士/建築物石綿含有建材調査士。
木造・RC・鉄骨解体、アスベスト除去(レベル1〜3)など、
現場責任者として多数の解体工事に携わる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「言った言わない」を完全にゼロにすることはできますか?
A. ゼロにはできません。
人が関わる以上、認識ズレの可能性は必ず残ります。
ただし、金銭トラブルに発展するズレはほぼ防げます。
ポイントは、
- 決定事項を必ず記録に残す
- 曖昧な言葉を放置しない
- 判断権限を現場責任者に集約する
この3点を守るだけで、「揉めるズレ」は激減します。
Q2. 口頭のやり取りは、すべてNGですか?
A. NGではありませんが、証拠になりません。
現場での会話そのものは必要です。
ただし重要なのは、
「その話を、最終的にどこに戻すか」。
- 口頭で話す
- その日のうちにLINEやメールで要点を送る
- 相手から「了解しました」をもらう
この流れがあって初めて、安全なやり取りになります。
Q3. 現場に顔を出さない方がいいのでしょうか?
A. 出たほうがいいです。ただし“距離感”が重要です。
挨拶や状況確認、雑談レベルのコミュニケーションは
トラブル予防として非常に有効です。
問題なのは、
- 作業内容をその場でお願いする
- 「ついでに」を現場で言ってしまう
- 現場作業員と約束してしまう
ここをやらなければ、顔出し自体はプラスです。
Q4. 「一式」と書かれている見積もりは全部ダメですか?
A. 原則NGだと思ってください。
「一式」は、
- 範囲
- 数量
- 増減条件
この3つが不明確なままになる表現です。
どうしても一式になる場合は、
「何が含まれて、何が含まれないのか」を
必ず別紙や注釈で言語化させてください。
Q5. 小さなことまで確認すると、業者に嫌がられませんか?
A. 嫌がる業者は、後で必ず揉めます。
優良な業者ほど、
- 「確認されること」
- 「決め切られること」
を歓迎します。
逆に、
「細かいですね」「そこまで気にします?」
と言う業者は、
後で責任を曖昧にする可能性が高いです。
Q6. LINEやメールでのやり取りは、法的に意味がありますか?
A. 十分あります。
契約書ほどの強制力はありませんが、
- 合意の証拠
- 認識の履歴
- 判断プロセスの記録
としては非常に有効です。
特に、
「その場で送って、その場で了承を取る」
このスピード感は、裁判にならなくても
話し合いを有利に進める材料になります。






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