※本記事は
「解体工事トラブル回避の全設計図(全10回シリーズ)」の第4回です。
― 責任は誰が取る?保険と契約書で“孤立”を防ぐ ―
◆破損事故の本当の恐怖は「二重苦」
解体工事で破損事故が起きたとき、施主が本当に追い詰められる理由は、
壊れたこと自体ではありません。
本当の恐怖は、次の二重構造です。
- 業者が「最初からあった」と責任を曖昧にする
- 近隣からは「あなたの工事で壊れた」と怒りを向けられる
★ 業者と近隣の板挟みになり、施主だけが孤立する
この瞬間、施主は「発注者」でありながら、
誰からも守られない立場になります。
結論として――
破損・事故トラブルは、
事故そのものより“責任のなすりつけ合い”を防げるかで明暗が分かれます。
👉 解体工事トラブル全体像と防ぎ方の設計図は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 を先にご覧ください。
1. 解体工事で起きる破損・事故の典型例
1-1. 現場で実際に多いケース
- 隣家の塀・基礎・外壁のヒビ
- フェンス・カーポートの変形
- 駐車車両への飛来物
- ガス管・水道管・下水管の損傷
- 電線・引込線への接触
※重要な現場感覚
★ 高額事故より、修理費数万円レベルの小さな破損のほうが揉めやすい
2. なぜ破損事故は施主に直撃するのか
2-1. 近隣から見た「責任者」は誰か
近隣住民の認識はシンプルです。
- 工事を頼んだのは誰か
→ 施主
業者が原因でも、
最初に説明を求められるのは施主です。
2-2. 施主が孤立する典型パターン
- 責任の所在が契約で曖昧
- 保険の中身を把握していない
- 初動で施主が謝ってしまう
この3点が揃うと、
一気に「逃げ場のない立場」になります。
3. 防げるのは「事故」ではない。
3-1. 事故はゼロにできない
解体工事では、
- 人が作業する
- 重機を使う
- 振動や衝撃が発生する
こうした条件が重なります。
当然、業者は事故ゼロを前提として工事を行いますし、それはプロとして当たり前の姿勢です。
「事故が起きても仕方ない」などという考えで現場に立つ業者は論外です。
ただし現実として、
人が行う作業である以上、どれだけ注意していても想定外の事態が起こる可能性を完全にゼロにはできない、というのも事実です。
★ 重要なのは
「事故を起こさない意識」ではなく、「万一の際にどう責任を取れる体制か」
事故そのものより、
・認めない
・説明しない
・責任を曖昧にする
この姿勢こそが、施主を一番苦しめます。
3-2. 本当に防ぐべきもの
- 業者が責任を曖昧にすること
- 近隣の怒りが施主に集中すること
- 保険が“使われない状態”になること
4. 契約前に潰すべき「保険の落とし穴」
4-1. 請負業者賠償責任保険の基本
- 工事中の対人・対物事故を補償
- 隣家・車・設備の破損が対象
★ 未加入業者は論外
4-2. 「免責金額」という最大の罠
見落とされがちですが、ここが核心です。
免責金額(自己負担)が
- 5万円
- 10万円
に設定されている場合――
★ 修理費3万円程度の破損では
業者は
- 保険を使いたがらない
- 自腹を切りたくない
- 「最初からあった」と言い出す
十分な動機が生まれます。
▶ 契約前に聞くべき質問
- 「免責金額はいくらですか?」
- 「小規模な破損でも保険対応しますか?」
5. 写真がないと、施主が負ける
5-1. 撮るべき範囲(必須)
- 境界付近
- 隣家の塀・外壁・基礎
- 搬入路(前面道路・側溝・縁石)
★ 重機の重量で
道路沈下・側溝破損が起きた場合、
自治体・近隣から責任を問われるのは施主です。
5-2. 業者の写真では足りない理由
- 業者の写真は「業者のため」
- 施主の写真は「施主を守るため」
日時入りで、施主自身が撮る。
これが最強の自己防衛です。
6. 事故が起きた瞬間の「正しい初動」
6-1. 謝らない。でも逃げない
謝罪=責任認定
無言=火に油
★ 使うべきは状況確認の約束
「ご心配をおかけしていることは承知しています。
すぐに業者と保険会社に連絡し、事実関係を確認した上で、
責任を持って対応方針をご報告します。」
これが、
誠実さと防御を両立できる言い方です。
6-2. 保険対応を「可視化」する一言(重要)
業者任せにしてはいけません。
実際には
「保険で対応しています」と言いながら
手続きを放置している業者も存在します。
★ ここで必ず確認すること:
「保険会社の事故受付番号を教えてください」
- 受付番号が出る=正式に保険が動いている
- 出ない/濁す=未申請・放置の可能性大
この一言で
- 業者の逃げ道を塞げる
- 保険プロセスが可視化される
- 施主が主導権を取り戻せる
保険対応は
“言った言わない”ではなく、番号で管理する
これが現場の鉄則です。
※事故が起きたときに揉めるのは、
「保険」「責任」「記録」が曖昧な現場です。
7. 第1〜3回との連鎖を再確認
- 追加費用で揉める
→ 現場の空気が悪化
→ 注意力が落ちる
→ 破損・事故が起きる
★ トラブルは単発ではなく、連鎖します。
まとめ
事故より怖いのは「孤立」
- 事故は起きる
- 破損もあり得る
- でも――
★ 責任・保険・証拠が揃っていれば、地獄にはならない
今日覚えることはこの3つだけ。
- 保険は「免責金額」と「受付番号」まで確認
- 写真は搬入路まで撮る
- 初動は謝罪ではなく事実確認
👉 これらを一体で管理する考え方は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 にまとめています。
本記事は、解体現場に25年以上携わってきた筆者の経験に基づき、
一般的な判断材料としてまとめています。
この記事を書いた人
秋ちゃん
解体業に25年以上従事。
1級建設機械施工技士/建築物石綿含有建材調査士。
木造・RC・鉄骨解体、アスベスト除去(レベル1〜3)など、
現場責任者として多数の解体工事に携わる。
次回予告(第5回)
解体工事で起きる認識ズレ|「言った言わない」を防ぐ方法
最後に残る、
一番静かで、一番厄介なトラブルを解説します。
よくある質問(FAQ)
Q1. 小さなキズでも、本当に事故扱いになりますか?
A. なります。
金額の大小は関係ありません。
解体工事中に発生した可能性がある以上、「事故として扱うかどうか」は保険と証拠で判断されます。
むしろ、
修理費が数万円レベルの小さな破損ほど
・業者が保険を使いたがらない
・「最初からあった」と言い出しやすい
ため、トラブルになりやすいのが現実です。
Q2. 業者が「うちで直します」と言ってきた場合は任せていい?
A. 原則NGです。
理由は2つあります。
① 保険が使えなくなるリスク
一度でも「自社対応」で手を入れると、
事故としての客観性が失われ、保険適用外になる可能性があります。
② 技術力の問題(ここが本質)
解体業者は「壊すプロ」であって、
外構・左官・塗装・建物補修の「直すプロ」ではありません。
その場では
- パテで埋めただけ
- 色が合っていない
- 数年後に剥がれる・浮く
といった“後から効いてくる手抜き補修”になりがちです。
その頃には業者も現場も残っておらず、責任追及はほぼ不可能です。
◆ だからこそ
「保険対応にするか」「事故受付番号は何番ですか」
この2点を必ず確認してください。
誠実な業者ほど、ここを嫌がりません。
Q3. 業者が保険に入っていれば、施主は何もしなくていい?
A. いいえ。放置は一番危険です。
「保険に入ってます」はスタート地点であって、ゴールではありません。
施主が最低限やるべきことはこの3つです。
- 事故内容を把握する
- 写真を自分でも保管する
- 保険会社の事故受付番号を確認する
これをやらないと、
「保険で対応中です」と言われたまま
何も進んでいなかったという事例は本当にあります。
Q4. 工事前の写真は、業者が撮っていれば十分では?
A. 不十分です。
業者の写真は業者を守る記録であって、
施主を守る証拠ではありません。
さらに重要なのが、撮影のタイミングです。
ベストなタイミングは
★ 「重機が搬入される直前」
早すぎると
「撮影後に壊れたのでは?」
という逃げ道を与えてしまいます。
最低限、施主が撮るべき場所は以下です。
- 境界付近
- 隣家の塀・外壁
- 前面道路・側溝・搬入路
ここを撮っていない施主は、
道路破損・側溝破損トラブルでほぼ確実に不利になります。
Q5. 事故が起きたら、やっぱりまず謝るべき?
A. 気持ちは分かりますが、謝り方を間違えると危険です。
「申し訳ありませんでした」は、
法的には“責任を認めた”と解釈される可能性があります。
使うべきなのは、
謝罪ではなく「調査を約束する言葉」です。
◆ 使っていいフレーズ
「ご心配をおかけしていることは承知しています。
すぐに業者と保険会社に調査をさせ、
事実関係に基づいた対応方針をご報告します。」
ポイントは
- 「私が判断します」と言わない
- 「プロによる調査」を前面に出す
- 感情と責任を切り離す
これが、施主ができる最大限の誠実さであり、
同時に自分を守る最強の初動です。
Q6. 結局、破損・事故で一番大事なことは?
A. 事故そのものより「孤立しない仕組み」を作ることです。
- 契約で責任の所在を決める
- 保険の中身(免責金額)を把握する
- 写真と受付番号で事実を残す
これが揃っていれば、
事故が起きても精神的にも金銭的にも致命傷にはなりません。
逆に、
「まあ大丈夫だろう」で流した施主ほど、
最後に一人で抱え込むことになります。






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