解体工事で起きる認識ズレ

解体工事トラブル回避
この記事は約6分で読めます。

※本記事は
「解体工事トラブル回避の全設計図(全10回シリーズ)」の第5回です。


「言った言わない」を防ぐ方法

◆ 沈黙のコストを甘く見るな

解体工事で、あとになって一番後味が悪くなるトラブル。

それが「言った」「聞いていない」問題です。

ここではっきり言っておきます。

解体業界において、

「言わなくてもわかってくれるだろう」

という期待は、
数万円〜数十万円の損失を予約しているのと同じです。

  • 契約違反ではない
  • 法的に黒とも白とも言い切れない
  • それでも確実に、お金と信頼だけが削られていく

実際には、「ついで作業」「認識違い」が積み重なり、
気づいたら100万円近く膨らむケースも珍しくありません。

工事が始まってから、
「常識だと思ってた」「そこまで言う必要ある?」
と嘆くのは、すべて事前設計を放棄した代償です。

この記事では、
「揉めたときの対処法」ではなく、
最初からズレが起きない状態をどう作るかを解説します。


1. なぜ解体工事は「認識ズレ」が起きやすいのか

👉 解体工事トラブル全体像と防ぎ方の設計図は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 を先にご覧ください。

1-1. 解体工事は“仕様書が薄い工事”

解体工事には、建築工事のような明確な「完成形」がありません。

工程の多くが現場判断に委ねられ、
途中変更が前提となる――
言語化されていない領域が異常に多い工事です。

ここを曖昧なまま進めれば、認識がズレるのは当然です。

1-2. 認識ズレの正体は「悪意」ではない

ほとんどのケースで、悪意はありません。

  • 施主は「常識」だと思っている
  • 業者は「契約外」だと思っている

この前提のズレが、すべての火種です。

だからこそ、
「言わなくてもわかる」は、解体工事において最も危険な思考なのです。


2. 「言った言わない」が発生する典型パターン

2-1. 営業と現場で話が違う

営業担当は「できます」と言った。
でも、現場責任者は「聞いていない」。

これは、
情報が現場に正しく落ちていない典型例です。

重要な合意事項は、
必ず現場責任者の名前が出る形で書面化しなければ、
「言ってない」扱いになります。

2-2. 「ついでに…」が生む最大の混乱

「ついでにこれも」
「できたらでいいです」

この「できたらでいい」は、現場を迷わせる最悪の指示です。

  • やるのか、やらないのか
  • 無料なのか、有料なのか

白黒をつけない“優しさのつもり”が、そのまま追加費用トラブルの火種になります。

2-3. 曖昧ワードの放置

次の言葉が出たら、要注意です。

  • 「一式」
  • 「常識の範囲」
  • 「必要に応じて」
  • 「できるだけ」

これらはすべて、あとでズレることを約束する前提ワードです。


3. 認識ズレを防ぐ「契約前」の設計

この記事で言う「玄人」とは?
”リスクの構造を理解した上で、先回りして“設計”できる施主”

3-1.玄人は作業内容より「判断ルール」を決める

玄人が重視するのは、
作業の細かさではありません。

  • 誰が判断するのか
  • いつ確認するのか
  • どうやって合意するのか

この決定プロセスを固定することが最重要です。

3-2. 「含まれないこと」を決めない契約は、ほぼ確実に揉める

やることだけを書かせてはいけません。

  • やらないこと
  • 別途になること

これをあえて言語化させる
それが、後で一番効いてくる安心材料になります。


4. 現場でズレを起こさない“距離感”

4-1. 現場に行きすぎる施主ほどズレを生む

毎日現場に顔を出すと、

  • 雑談の延長で話が進む
  • 責任の所在が不明な口約束が増える

結果として、
「誰が決めたのか分からない話」が量産されます。

4-2. 玄人施主の正しい立ち位置

やるべきことは、これだけです。

  • 見る
  • 聞く
  • 確認する

指示はしない。判断もしない。
決めるのは、現場責任者ただ一人に集約させる。

※ 顔出しや最低限の挨拶、状況確認は有効です。
問題なのは、現場で約束してしまうことです。


5. それでもズレたときの玄人対応

5-1. 感情ワードは封印する

「言ったでしょ」はNGです。

代わりに、こう伝えてください。

「どこまでが契約内容で、どこからが別途になるのか、
一度整理して書面で確認させてください」

感情を挟まず、事実と記録に戻す
これが唯一の正解です。

5-2. 「記録に戻す」を“作る側”に回れ

玄人は、記録を後追いしません。

  • 打ち合わせの最後に
  • その場でLINEやメールで決定事項を送る
  • 相手に「了解しました」と返信させる

「後でまとめます」は信用しない。
その場で証拠を確定させる
これがズレない現場のスピード感です。

※この運用ができない業者と進めば、「言った言わない」は必ず起きます。

👉 これらを一体で管理する考え方は、
【完全ガイド】解体工事トラブル回避の全設計図 にまとめています。


まとめ|解体工事を成功させる“本質”

解体工事を成功させるのは、
運でも、業者の良心でも、人柄でもありません。

施主が
「リスクの構造」を理解し、
主体的に現場をコントロールする知性
です。

言った言わないを防ぐのは、
テクニックではなく「設計」。

そしてこの設計こそが、
第1回から第5回まで一貫して伝えてきた、
「施主が主導権を持つ解体工事」の正体です。


本記事は、解体現場に25年以上携わってきた筆者の経験に基づき、
一般的な判断材料としてまとめています。

 この記事を書いた人

秋ちゃん
解体業に25年以上従事。
1級建設機械施工技士/建築物石綿含有建材調査士。
木造・RC・鉄骨解体、アスベスト除去(レベル1〜3)など、
現場責任者として多数の解体工事に携わる。

 ▶プロフィールはこちら

よくある質問(FAQ)

Q1. 「言った言わない」を完全にゼロにすることはできますか?

A. ゼロにはできません。

人が関わる以上、認識ズレの可能性は必ず残ります。
ただし、金銭トラブルに発展するズレはほぼ防げます。

ポイントは、

  • 決定事項を必ず記録に残す
  • 曖昧な言葉を放置しない
  • 判断権限を現場責任者に集約する

この3点を守るだけで、「揉めるズレ」は激減します。


Q2. 口頭のやり取りは、すべてNGですか?

A. NGではありませんが、証拠になりません。

現場での会話そのものは必要です。

ただし重要なのは、
「その話を、最終的にどこに戻すか」

  • 口頭で話す
  • その日のうちにLINEやメールで要点を送る
  • 相手から「了解しました」をもらう

この流れがあって初めて、安全なやり取りになります。


Q3. 現場に顔を出さない方がいいのでしょうか?

A. 出たほうがいいです。ただし“距離感”が重要です。

挨拶や状況確認、雑談レベルのコミュニケーションは
トラブル予防として非常に有効です。

問題なのは、

  • 作業内容をその場でお願いする
  • 「ついでに」を現場で言ってしまう
  • 現場作業員と約束してしまう

ここをやらなければ、顔出し自体はプラスです。


Q4. 「一式」と書かれている見積もりは全部ダメですか?

A. 原則NGだと思ってください。

「一式」は、

  • 範囲
  • 数量
  • 増減条件

この3つが不明確なままになる表現です。

どうしても一式になる場合は、
「何が含まれて、何が含まれないのか」を
必ず別紙や注釈で言語化させてください。


Q5. 小さなことまで確認すると、業者に嫌がられませんか?

A. 嫌がる業者は、後で必ず揉めます。

優良な業者ほど、

  • 「確認されること」
  • 「決め切られること」

を歓迎します。

逆に、
「細かいですね」「そこまで気にします?」
と言う業者は、
後で責任を曖昧にする可能性が高いです。


Q6. LINEやメールでのやり取りは、法的に意味がありますか?

A. 十分あります。

契約書ほどの強制力はありませんが、

  • 合意の証拠
  • 認識の履歴
  • 判断プロセスの記録

としては非常に有効です。

特に、
「その場で送って、その場で了承を取る」
このスピード感は、裁判にならなくても
話し合いを有利に進める材料になります。


コメント